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路傍の晶

第26回

陶芸教室 HoloHolo陶房 渡辺さん

瑞江の閑静な一画で教室を開く
渡辺さん。お酒好きで、自分用の
ぐい飲みも作る
瑞江の閑静な一画で教室を開く
渡辺さん。お酒好きで、自分用の
ぐい飲みも作る

初めてろくろを回したときのことをいまも鮮明に憶えている。
「大学生の頃でした。旅先で陶芸を体験させてくれる場所をたまたま見つけて、はじめは友人とああだこうだ喋りながら回していたんですが、ふと気付くと僕も友人も無言になっていた。綺麗に挽けてくれと、いつの間にか目の前の土に神経を集中させていたんです。その心地よい緊張感、そして形になりそうでならない歯がゆさに自然と惹かれました」


 八ヶ岳で得たこの経験を機に、渡辺さんは陶芸の魅力に取り込まれていく。時間を見つけては陶器の産地へ赴き、土いじりに励んだ。卒業して会社勤めをするようになってからも、手元に道具を揃え、自宅で陶芸に勤しんだ。

製作途中の作品。作るものにもよるが、
約2週間ほどで完成に至る
製作途中の作品。作るものにもよるが、
約2週間ほどで完成に至る
しかし仕事上の責任が増すにつれ、プライベートの時間はどんどん減っていく。陶芸はもとより、自身の家族と過ごす時間すら儘ならない。帰宅は毎晩のように深夜に及び、愛娘との触れ合いは寝顔を見ることでしか果たせなかった。逆に自分が家族に見せる顔は、疲弊しきった 30代のそれだった。
完成した生徒さんたちの作品の一部。
色使いにもそれぞれの個性が表れる
完成した生徒さんたちの作品の一部。
色使いにもそれぞれの個性が表れる

「やりたいことを我慢してはいかんと、あるとき思ったんです」葛藤した当時を振り返る。
「子どもの成長、また子どもと自分との関わり方について、毎日のように考えていました。要するに、自分が娘に対してどうありたいか。たとえ金回りが悪くなったとしても、自分らしく生きているほうがいい。娘が成長して、いずれ会話さえしなくなるときが来るかもしれんけど、そんなときでも父親の姿だけは見せられる。そのときに、眉間にシワを寄せてサラリーマンをやっている姿よりも、自ら好きだといえる自分を娘に見せたいと思った。この道を選んだ理由はそれに尽きます」


 あるべき姿を見定めた渡辺さんは、会社を辞し、愛知県は瀬戸市にある窯業高校の専攻科に進んだ。2年間で陶芸に関するすべてを学び、卒業間もない2005年7月、「HoloHolo陶房」を開いたのだった。


 それにしても、いったい陶芸の何がそこまでひとをかきたてるのだろう。日々、土と向き合う彼の言葉に耳を傾けたい。
「粘土は“当たり”がやわらかいですよね。押せば押した分だけの形になるし、やわらかく触ればやわらかさが、かたく触ればかたさがそのまま表れる。自分の思うがままの姿になり、つまりは作品に自分が出るワケです。ろくろを回すときには一定の精神力も必要。心地よい緊張感とともに、土との対話は楽しくて仕方がない。時間を忘れます」


 およそ30名の生徒を指南する傍ら、教室が休みの日には自身の作品づくりに余念がない。さらに今後について、「遠い将来かもしれないけれど、自分の手で窯をつくりたいと思っています。いえ、必ずつくります」と彼は語った。


土と向き合い形づくるという行為は、己れと向き合い、思い描く自分に近づこうとすることに通じるのかもしれない。その道のりはけっして平坦ではなく、ときには急な勾配に苦しむこともあろう。それでも道は目の前に延びている。たとえ立ち止まることがあっても、歩むことを放棄しないかぎりどこまででも進んでいける。


「陶芸家でありたい」と、渡辺さんは言った。それが道の途上で見つけた、父親としての彼のこたえだった。





取材・文◎隈元大吾


HoloHolo陶房
住所:  〒133-0065
江戸川区南篠崎町2-24-3
アクセス:  都営新宿線瑞江駅南口より徒歩5分
電話番号:  03-3698-6016
開講時間:  10:00~22:00
開講時間はホームページ・お電話にてお問い合わせ下さい。
休講日:  金・日曜

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