路傍の晶
健康サロン リトルターン 蛭田さん
こうして2002年に興したのは、環境問題に取り組む会社だった。具体的には、工場で出るゴミを圧縮するための機械を企業に紹介し、リサイクル先まで含めて面倒を見るというものだ。かような仕事を始めた理由について、「子どもたちがようやく手を離れたから」と蛭田さんは悪戯っぽく笑うが、実際はもちろん単なる暇つぶしではない。
「ひとに喜ばれる仕事をゆっくりやりたいと思いました。排気ガスや食品添加物などの影響で体を悪くしていく子どもたちの話を聞くにつれ、私たちが子どもや孫に遺せるものは、いまより少しでも環境をよくすることだと思い至ったんです」
彼女は地元江戸川区でサークルをつくり、子どもたちを対象とする環境講座を開くなど、気付きの必要性を説いた。環境問題に関する自身の勉強も弛まない。さらに環境を突き詰めていくうち、ある思いに辿り着く。それが「健康」の大切さだった。
「たとえば土の栄養が減少している実情は、食育、つまり健康にも繋がってきますよね。むかしは成人病といわれていた病気も、いまや習慣病と呼ばれ、幼い子どもたちにまで波及している。私たちの学んだ知識を伝えることによって、皆さんがあらためて自分自身の体について考えてくださるといいなと思い、このサロンをつくりました」
2005年11月にオープンした健康サロン「リトルターン」では、岩盤浴をはじめ、リフレクソロジー、代謝を活性させる注熱、アーユルヴェーダでも用いられる植物を粉状にしたヘナによるトリートメントなど、「健康」をキーワードにさまざまなサービスを展開している。また施術のみならず、そこで交わされる会話も人々の癒しにひと役買っているようだ。
「とくに女性は普段、子どもや夫の健康に気を遣わなければいけません。その分、自分のケアが少ないんですね。ここに来ることで日常からすこし離れて、溜まっているいろんな話をするだけでも、ストレス解消になると思います」
体にいいものを提供していきたいと、蛭田さんは言う。
「ゆっくり寝て、スッキリして帰っていただくのが一番。ここが憩いの場になれたらうれしいですね。飛び立つまで羽を休めるような、お客さまが自分自身を見つめなおすことのできるサロンでありたい」
コミュニケーションを大切にするケアは、肉体のみならず、精神的な毒素をも排除する。篠崎駅に佇むマンションの一室は、その名に違わぬ「再生」の場所だった。
取材・文◎隈元大吾