地元暮らしをちょっぴり楽しくするようなオリジナル情報なら、江東区の地域情報サイト「まいぷれ」!
文字サイズ文字を小さくする文字を大きくする

江東区の地域情報サイト「まいぷれ」

路傍の晶

第6回

陶芸工房 パハロセラミカ 代表 池谷さん

「土をこねるのが大好き」という池谷さん
「土をこねるのが大好き」という池谷さん

 陶芸教室を始めて、およそ2年半が経つが、「まさか自分が陶芸教室を開くことになろうとは・・・」と、池谷さんは不思議な感覚を禁じえない。
「花が好きで、そもそもは植木鉢や花瓶を自分でつくりたいと思い、陶芸教室に通っていたんです。1年ほどして、習っていた先生が教室を閉めることになり、釜や作業テーブル、ロクロなど、陶芸で使う器材一式を譲ってくださった。ちょうど南砂町にはひとが集まって何かをするような場所もなかったので、それを機に先生をお招きして陶芸教室を始めたんです」


「ひとが集まる場所をつくりたい」という思いは、池谷さんが10代のころから抱き続けてきたものだという。
「父が自転車業を営んでいたこともあり、私の家はつねに、たくさんのひとたちが集まってくる場所でした。当時の影響もあるのでしょう、私は人付き合いが楽しいし、好き嫌いもない。また経理という仕事柄、ひとに教える機会も多く、教えること自体に喜びを感じる。それで、ひとが集まって、なおかつ学べる場所をつくろうと思ったのが、陶芸教室を始めた動機ですね」

作業台には生徒さんたちの作品が
たくさん並ぶ
作業台には生徒さんたちの作品が
たくさん並ぶ

 じつは、教室を開くのはこれが初めてではない。自分の子どもが幼いころは、生来の子ども好きも手伝い、愛息子だけでなく近所の子どもたちも一堂に集め、書道やそろばんを無料で教えていた。また当時から、先生に依頼し教室を任せることもあった。


 それにしても、縁とは面白いものだ。陶芸教室を開いて数ヶ月が経ったある日、街中で不意に声をかけられる。記憶の片隅に残る懐かしい笑顔は、数十年前に教室に来ていた教え子のそれだった。家庭を持つまでに成長したかつての生徒は、池谷さんの近況を聞き、「自分の子どもにも陶芸を教えてほしい」と持ちかける。この出来事を契機に、大人を対象としていた陶芸教室に、子ども向けのクラスが設けられた。さらに、「子どもと一緒につくりたい」という親たちの要望に沿って、いまでは親子教室も用意されるまでになった。

南砂町の閑静な住宅地に佇む工房
南砂町の閑静な住宅地に佇む工房

「いまは私自身が陶器をつくれていないので、反省しています」と、池谷さんは頭をかく。
「陶芸は3分の1が指導、残りは雑用です。指導は先生をお招きしてお願いし、私は雑用に徹している。それでも、子どもをはじめ来てくださるひとたちが何かを身につけてくれれば、私はうれしい。互いに教えあって生きていけたら素晴らしいと思います」


評判は口伝てで瞬く間に広まり、当初は2名から始まった子ども教室も、生徒はいまや35名を数える。先生も3名に増えた。さらには陶芸教室をきっかけに、書道やそろばんの指導もふたたび頼まれているという。「ひとが集まり、学べる場所をつくりたい」少女時代から抱き続けてきた数十年越しの池谷さんの思いは、いま確実に実を結びつつある。





取材・文◎隈元大吾

人気のキーワード